ロジカルシンキングを鍛えるをテーマとした第3回目の記事です。今回ご紹介する「MECE(ミーシー)」はある意味「思考を整理する魔法の杖」です。ロジカルシンキングの基礎でありながら、思考するうえで非常に効果的です。「モレなく、ダブりなく」物事を整理する感覚を養うことで、皆さんの思考は飛躍的にクリアするでしょう。
MECE(ミーシー)とは?:思考を整理する道しるべ
MECE(ミーシー)とは、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの頭文字を取った言葉です。日本語に訳すと「モレなく、ダブりなく」となります。ロジカルシンキングや問題解決において、情報を整理する際の最も基本的な考え方の一つです。
Mutually Exclusive(モレなく)
分類された要素の中に、本来含めるべきものが抜け落ちていない状態を指します。全体を網羅している、ということです。
Collectively Exhaustive(ダブりなく)
分類された要素が、互いに重複していない状態を指します。同じものが複数のカテゴリに属していない、ということです。
なぜ、MECEが重要なのか?
私たちが何かを考えるとき、無意識のうちに「〇〇と△△と□□」のように分類しています。しかし、その分類がMECEになっていないと、以下のような問題が生じます。
モレがある場合
重要な要素を見落とし、本質的な問題解決に至らない可能性があります。例えば、プロジェクトの課題洗い出しで「顧客の声」がモレていたら、的確な改善策は生まれません。
ダブりがある場合
同じことを何度も議論したり、重複した対策を講じたりと、無駄な時間や労力が発生します。また、全体像が不明瞭になり、混乱を招く原因にもなります。
MECEは、思考の全体像を明確にし、見落としや無駄を排除することで、効率的かつ効果的な思考を可能にする道しるべと言えます。
MECEがもたらす3つの変革
MECEを意識することで、皆さんの思考そして日常に、以下のような変化が期待できます。
1. 思考の透明性向上
複雑な問題でも、MECEな視点で分解することで、どこに課題があるのか、何が本質なのかがわかりやすくなります。
2. 問題解決の精度向上
課題の「モレ」や対策の「ダブり」がなくなることで、根本原因を正確に特定し、最も効果的な解決策を導き出すことができます。的外れな努力を避け、最小限の労力で最大の効果を得られるようになります。
3. コミュニケーション能力の飛躍的向上
自分の考えが整理されているため、相手に分かりやすく、論理的に説明できるようになります。誤解や認識のズレが減り、会議や交渉、報告の質が格段に向上します。
MECEを使いこなす実践トレーニング:日常を教材に
MECEは、知識として知っているだけでは意味がありません。意識的に使い、習慣化することで、初めてその威力を発揮します。ここでは、MECEを使いこなすための具体的なステップと、日常でできるトレーニング方法をご紹介します。
MECEの具体的な活用ステップ
1. 目的の明確化
「何のためにこの情報を整理するのか?」「この分類で何を明らかにしたいのか?」を最初に明確にします。目的が曖昧だと、適切な切り口を見つけるのが難しくなります。
2. 切り口の選択
目的を達成するために、最も適切で分かりやすい分類基準(切り口)を選びます。例えば、「時間軸」「場所」「対象者」「製品・サービス」「プロセス」「費用」「緊急度・重要度」など、様々な切り口が考えられます。
3. 要素の分類と検証
選んだ切り口に従って、具体的な要素を分類していきます。分類しながら、「モレはないか?」「ダブりはないか?」を繰り返し検証します。
4. ブラッシュアップ
一度分類してみて、もしモレやダブりが見つかったら、切り口を見直したり、より細かく分解したりして、MECEな状態に近づけていきます。完璧を目指しすぎず、80点くらいでもまずはOKです。
ケーススタディで学ぶMECE
ケーススタディ1:今日のToDoリストをMECEで整理する
今日のタスクが「会議、資料作成、メール返信、Aさんと打ち合わせ」だとします。これだけだと、Aさんと打ち合わせが会議に含まれるなど「ダブり」が生じる可能性がありますし、休憩や移動時間、突発的なタスクなどが「モレ」ているかもしれません。
MECEな切り口の例
時間軸で区切る(午前中に終わらせること、午後に取り組むこと、終業後にやるべきこと(自己学習など))
緊急度・重要度で区切る(緊急かつ重要、緊急ではないが重要、緊急でも重要でもない)
タスクの種類で区切る(定型業務、非定型業務、対人業務、個人業務)
例えば「タスクの種類」で区切ると、モレなくダブりなくタスクを整理し、それぞれの種類ごとに時間の見積もりや優先順位をつけやすくなります。
ケーススタディ2:Webサイトの改善点をMECEで洗い出す
「うちの会社のWebサイト、なんか使いにくいんだよな…」という漠然とした課題に対し、MECEを使って具体的に改善点を洗い出してみましょう。
悪い例: 「デザインが悪い」「文字が小さい」「読み込みが遅い」「コンテンツが古い」
これでは、網羅性がなく、何から手をつければいいか分かりません。
MECEな切り口の例(ユーザー体験 (UX) の視点)
UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザー体験)
視認性(デザイン、フォント、色使い)
操作性(ナビゲーション、ボタン、フォームの使いやすさ)
情報設計(コンテンツの配置、ページの構造、導線)
コンテンツ
情報量と質(専門性、正確性、網羅性)
鮮度(情報更新頻度、最新性)
表現形式(文章、画像、動画の適切性)
システム/技術
パフォーマンス(ページの読み込み速度、安定性)
セキュリティ(SSL対応、個人情報保護)
互換性(マルチデバイス対応、ブラウザ対応)
マーケティング
SEO(検索エンジン最適化)
CTA(行動喚起の配置と効果)
コンバージョン率(問い合わせ、購入など)
このようにMECEに分類することで、「読み込みが遅い」は「システム/技術」のパフォーマンス、「文字が小さい」は「UI/UX」の視認性といった具体的な課題に落とし込むことができ、それぞれ担当部署や専門家と連携して改善策を講じやすくなります。
日常でMECEを鍛える習慣
MECEは特別なスキルではありません。日々の意識とトレーニングで誰でも身につけることができます。
1. ニュース記事をMECEで要約する
記事を読んだ後、「このニュースの『登場人物』は?」「『原因』は?」「『結果』は?」「『課題』は?」「『対策』は?」のように分類して要約してみましょう。
2. 家電量販店の陳列をMECEで分析する
「なぜこの冷蔵庫と洗濯機はここに置かれているんだろう?」「メーカー別?」「価格帯別?」「機能別?」など、自分なりのMECEな切り口を考えてみましょう。
3. 友人との会話で相手の話をMECEで整理する
友人の悩みを聞く際、「今置かれている『状況』は?」「何が『問題点』なのか?」「友人の『感情』は?」「『望んでいること』は?」のように頭の中で整理しながら聞いてみましょう。質問する際にも役立ちます。
4. あえて異なる切り口を考える
一つの事柄をMECEに分類できた後、「他にMECEにできる切り口はないか?」と、複数の視点から再考してみる練習をすると、思考の柔軟性が高まります。
MECEで陥りがちな落とし穴と乗り越え方
MECEは強力なツールですが、使い方を誤ると非効率になったり、本質を見失ったりすることがあります。
1. 完璧主義に陥る
「完璧なMECEにしなければ」とこだわりすぎると、時間がかかりすぎたり、複雑になりすぎたりして、本質を見失うことがあります。MECEはあくまで思考を整理する「手段」であり、「目的」ではありません。まずは80点を目指し、実践の中で精度を高めていきましょう。
私も初期のころは完璧にMECEをしなければ…といったこだわりに支配されている時期がありました。ある程度で進めて気づいたら修正するといった柔軟性を持つことをお勧めします!
2. 目的を見失う
何のためにMECEを使っているのかを忘れて、ただ分類すること自体が目的になってしまうことがあります。常に「この分類で何を解決したいのか?」「何が知りたいのか?」という原点に立ち返りましょう。
3. 切り口が固定観念に縛られる
いつも同じような切り口ばかり使ってしまうと、新しい発見が少なくなります。多様な視点を持つために、異なる分野の知識を学んだり、他者の意見を聞いたり、SWOT分析や3C分析など既存のフレームワークを参考にしたりして、引き出しを増やしましょう。
まとめ:MECEは思考を磨く一生の武器
MECEは、一部のビジネスパーソンだけが使う特別なスキルではありません。日々の生活の中で、誰もが意識し、実践することで身につけられる「思考の基礎体力」です。
最初から完璧に使いこなす必要はありません。今日のToDoリストをMECEにしてみる、ニュース記事をMECEに要約してみる、といった小さな一歩から始めてみると良いでしょう。
MECEを習得することで、思考はクリアになり、問題解決能力が向上し、コミュニケーションは円滑になります。それは、仕事のパフォーマンス向上だけでなく、日常生活におけるあらゆる意思決定の質を高めることにも繋がるでしょう。
今日から「モレなく、ダブりなく」物事を整理する魔法の杖MECEを使いこなし、ロジカルシンキングの達人を目指していきましょう!